【保存版・随時更新】海外投資で行き詰まった時の対策、損失をいち早く止める方法

どんな投資でも成功している、順調に進んでいる時は、細かいこと振り返って分析したり、一日中その投資のことを考えることも少ないでしょう。一方で、不測の事態が生じて、上手く進まない状態になると、焦って対応に追われ、見落としていた様々な問題が浮かび上がってくるということも往々にしてあります。まずい、と思った時には既に手遅れになっているケースもありますが、大抵の場合は全部でなくても、ある程度リカバリーするための手段が残されていることが多いでしょう。ただ、適切なタイミングで適切な対応を取らなければ、せっかくの回復のチャンスを逃してしまいます。行き詰まった時には、初心に立ち返り、投資の見える化を行うことで現状を見つめ直し、取り得る選択肢として何が残されているのかを冷静に検討、判断する必要があります。時にはサンクコスト(埋没コスト)が、意思決定の障害になる時もありますが、目先の事象だけに囚われない合理的な判断が、結果的に望ましい成果をもたらすでしょう。

1. 現状把握

1-1. 投資の見える化

まずは投資単体の見える化を実施することが先決です。資料の整理整頓状態にもよりますが、それぞれの項目を確認していくことで、当該投資の現状が少しずつ見えてきます。共同投資をしている場合等で、必要資料が不足している時は速やかに取引関係者への照会を行いましょう。

1-1-1. 事業・投資計画

対象となる投資を検討、実行してきたからには投資計画、またその事業計画が存在するはずです。一般的には、投資全期間に対応する計画、直近単年度の計画を作成することが多いでしょう。JV(ジョイントベンチャー)の場合等では、期中に変更を重ねている場合もあるので、その点も留意が必要です。

1-1-2. キャッシュフロー計画

事業・投資計画に加えて、特に資金の入出金が多い投資では、キャッシュフロー計画が組まれていることもあります。作成するのが望ましい資料ではあるものの、手間がかかることから省略されて存在しない時も散見されます。事業・投資計画と異なり、細かく進捗管理・アップデートしないとならない資料です。

1-1-3. 銀行口座等の残高

投資の種類によっては、複数の金融機関で複数の銀行口座が開設されていることも少なくありません。通常、それぞれの銀行口座には開設時に目的を持って作られています。海外の場合、口座残高が少ないと手数料が課されることが多いので、不要な口座維持は避ける方が良いでしょう。今の時代、オンラインで残高確認できることがほとんどですが、残高証明証を取得する方が望ましい場合もあるかもしれません。

1-1-4. 投資ストラクチャー図

投資ストラクチャー図とは、取引関係者を図式化し、当該関係者間の取引とその数値、相互関係性等をわかりやすく表したものです。投資エンティティ、業務委託先、出資、貸付、売買、賃貸等の取引関係が一見して、理解できる図表があると良いでしょう。既に存在する資料が分かりづらいものや情報が不足しているものであれば、適宜更新することが望まれます。この図表を作成、見直すことによって、当該投資の外観を改めて理解することができます。

1-1-5. 主要契約書

投資の種類によって何を主要契約とするかは異なりますが、出資形態の場合は株式引受契約(サブスクリプションアグリーメント)、株主間契約(シェアホルダーズアグリーメント)、主要な業務委託契約(アセットマネジメント契約等を含む)等となりますし、貸付形態の場合は、貸付契約(ローンアグリーメント)、債権者間契約(インタークレディターアグリーメント)、担保関連契約(プレッジ、モーゲージアグリーメント)、その他主要な業務委託契約等となります。それらに加えて、当該投資に関わる投資エンティティの基礎書類(会社設立書類等)も整理しておくことが必要です。契約の構成が、投資ストラクチャー図と整合しているかどうかも重要なポイントになります。特に投資家の権利に直結する出資持分や貸付金額(分割実行している場合や、利息が元本化している場合)については、間違いがないか、正確に確認しましょう。

1-1-6. 第三者評価書

投資実行時、またその後定期的に投資対象について、第三者評価を取得している場合は、現状把握をする上で大きな助けになるでしょう。会計事務所やコンサルティング会社が作成する企業体についての価値評価の場合もあれば、不動産鑑定評価書のような特定の資産についての価値評価の場合もあります。いずれの場合でも、投資対象の価値の妥当性を標準化された尺度で、評価していますのでどのような要素が投資価値に影響を及ぼしているのかを体系的につかむことができます。ただし、取引背景によっては当該投資対象を過大評価している場合や、逆に保守的に評価しすぎている場合もあるので、第三者評価には依存しすぎずに、自らの尺度で、必要に応じて現実的なレベルで評価し直すことも肝要です。

1-1-7. 課税関係

投資対象の関連取引にどのような税金が、現在および将来に渡って課されるのか、確認することは極めて重要なポイントになります。法人税(や個人の所得税)は誰もが気にするところなので、それによって実質的な投資利益が削られてしまうことは分かりやすいのですが、付加価値税(消費税)や印紙税、キャピタルゲイン課税、源泉税(国内・海外)は、計算が複雑だったり、言葉は同じでも日本とは違う定義、計算方法である場合も珍しくありません。投資においては二重課税や不必要な課税をできる限り排除することが大切ですが、クロスボーダー取引では課税のタイミングが分かりにくく、後から想定外の課税関係が発生、判明するということもあるでしょう。新興国を中心に、国によっては国内企業と外資企業との間で制度や税率に差があることも少なくありません。

1-1-8. 意思決定プロセス

主要な契約書の内容を紐解くことによって、関係当事者との間の意思決定プロセスを確認します。自ら単独で投資している場合は、シンプルな意思決定プロセスによって方針が決定される場合が多いですが、複数の投資エンティティを活用していたり、ファンドマネージャーやアセットマネージャーへ業務委託しているケース等では、単独での投資であっても一定の書面手続き等のプロセスを経なければならず、時間とコストがかかります。また、JVなどで複数投資家がいる場合や複数の債権者がいる場合は、意思決定に制約が出てくることが通常なので、関係者の誰がどのような権利と義務を持っているのかを把握し、合意形成ができなかった場合にどのような事態が起こり得るのか、複数のシナリオを事前に想定しておくことが重要になります。投資実行時の経緯にもよりますが、意図的に意思決定プロセスを明確にしすぎていないケースや、解釈の違いが起こり得るケースがありますので、トラブルにならないように注意が必要です。自らの権利で能動的に決められることを確認するだけでなく、どこまで否決できる権利があるか、両面を意識しておきましょう。

1-1-9. 各種リスク分析と再評価

投資にはマクロ的な視点から個別事案のミクロ的視点まで、様々なリスクが存在しています。海外投資の場合は、投資先の国の事情によって検討すべきリスクの優先順位が変わってきます。例えば、新興国向け投資の場合は、政治的なリスクや法制度、税務、通貨のリスクに関して、先進国と比べて慎重に検討しないとなりません。キャッシュフロー分析など、個別事案で見るべきリスク含め、検討すべき項目については別ページにおいても説明をしていますので、それらをご参照ください。いずれにしても、各種リスク分析は投資の検討において最重要部分の一つですので、定期的な再評価も含めてしっかりと実施することが大切です。

1-2. 当初背景・前提の確認と評価

1-2-1. 投資の当初目的

なぜ当該投資を実行したのかを遡るために、まずは投資の当初目的は何であったのかを振り返ることが必要でしょう。当初の時点では、その目的を達成するために当該投資を推進したかもしれませんが、時間の経過と共に外部環境や自らの環境も変化し、その目的の達成自体が不可能になっていたり、その達成が大きな意味をなさなくなっていたりすることも考えられます。当初の目的を改めて見つめ直すことで、取捨選択すべきことが見えてくるでしょう。

1-2-2. 投資の評価尺度と優先順位

当初目的の確認の延長線上にあり、どのような評価軸で投資の意思決定をしたのか、その評価軸の中で優先していた軸は何かを再確認することが重要です。どのような投資でも、あらゆる評価軸で満点を取れるようなものはまずありません。良いところもあれば、悪いところもある、その中で優先順位に基づいて、期待成果に見合うリターンが得られるのかを検証して、投資判断するのが一般的なパターンでしょう。次のアクションを決めるにも、この評価尺度と優先順位が肝になります。

1-2-3. 投資の背景と経緯

投資の背景には様々なパターンがある。例えば、親密な人的つながりから投資機会が紹介されることもあれば、純粋に種々条件を決めて集めてきた複数の投資機会から是々非々で絞り込むこともある。投資の目的と評価尺度からやや外れてしまったものでも、取引関係者との間の事情で成約することもあるでしょう。ただ、特に当初の事情が、投資の方針転換に影響を及ぼしかねない状況の場合は、思い切った対処が事実上難しいこともあるため、細心の注意が必要です。また、書面やメール等での記録がなく、口頭だけで済ませたような事情がある場合で、かつ相当の期間が経過している時は、取引関係者間の認識に齟齬が出ている恐れがあるでしょう。

1-2-4. 当初のリスク分析結果

緻密なリスク分析を実施した上で困難な状況にあるのか、そもそも当初のリスク分析が不十分なまま投資の実行に至り、今の状態があるのか。結果的に、その後に取り得る選択肢が同じであっても、しっかり分析ができていれば、その問題が生じる可能性が低かったと言えるケースもあるかもしれません。リスク分析がずさんだったからと言って、当初の問題をほじくり返すことに焦点が行ってしまっては本末転倒なので、それは避けたいところですが、当初分析した結果と現状の問題点がどのように関連しているのか、それ以外の点で新たな問題が生じないのかを検証することが重要です。

1-2-5. 当初の投資判断プロセス

内外部の手続きとして、誰がどのように投資実行の判断を進め、契約上の権限が投資の意思決定、判断プロセスとの間で、矛盾のない構成となっていたか等を確認することが必要です。また、当初のプロセスと、現時点での権限に基づくプロセスが、時の経過とともに変わっている場合、思い切った対処を実施できることもあるでしょう。何れにしても、実質的な意思決定プロセスが曖昧になっていると、責任の所在も曖昧になる恐れがあるので、明確にすることが望まれます。

1-2-6. 取引関係者の役割とその関係性

取引関係者との利害関係は、度を超えない範囲においては問題になることは少ないですが、各々の役割によっては利益相反行為が発生したり、特定の取引関係者に便宜を図っていたり、都合の悪いことを揉み消したりする等、十分な透明性を確保できず不利益を被ることもあるでしょう。上述の投資ストラクチャー図と同様、取引関係者らの役割や取引内容を、わかりやすく図式化しておくことが大切です。

1-3. その他

1-3-1. 投資リターンと回収時期

投資のリターンは、当初の想定に加え、状況変化が生じている現時点の進捗、それから最終的にどの程度の水準を目指すのか、また最低限確保しなければならないリターンないし損失はどこまでなのか、を現実的な目線でイメージしておく必要があります。上手く行っている場合は、できる限りのアップサイドを目指して高い目標を掲げるのも良いですが、厳しい局面では腹をくくってボトムラインを決め、その基準からどこまで上振れできるかを考えるべきです。そして、投資の回収時期については、焦って当該投資の資金化をする必要がないかつ、回収までのキャッシュフローに問題がなければ、時間を上手く使いながら最終的な回収率を上げていくという方法が取れますが、そうでなければ、短期間で回収率を上げるために、痛みを伴ってもある程度大胆な対策を講じることが必要となるでしょう。

1-3-2. サンクコストの評価

サンクコスト(埋没コスト)は、重要な判断を遅らせてしまったり、判断軸を誤らせてしまう可能性のある悩ましい問題です。明らかに投入資金を取り返すことが難しい状況でも、その金額の大きさに途中では辞められず、ズルズルと時間が経過し、現状を維持していくだけでも傷を深くしてしまうような状況も考えられるでしょう。また、当該投資単体が、他の事業との間でシナジーを生んでいる場合や、取引関係者との間に特別な事情が存在するような場合には、一つの側面だけでの判断はできません。いずれにしても、課題解決のシナリオ構築、対処を決めるまでには、サンクコストに対する考え方を整理しておく必要があるでしょう。

2. 課題発見と整理

2-1. 課題の抽出

現状把握としての投資の見える化等のプロセスを一通り終えたら、次は具体的な課題、問題点を考えつく限り挙げてみましょう。定量的な課題だけでなく、定性的なものにも留意するべきです。リスク分析の評価軸や、エグジットまでの道筋をイメージしていくと、具体的に見えてくるものも多いはずです。また、時系列も考慮し、既に生じている課題のみならず、近い将来に起きる可能性がある課題も挙げておきましょう。

2-2. 課題の選別と優先順位付け

この段階で、課題を重要性、緊急性、時間軸(潜在的なものか、顕在化したものか等も含む)、定量的なもの、定性的なもの等にカテゴリー分けします。それぞれの課題を解決するために、コストが生じる(生じる可能性がある)か、自らの力や契約上の権利だけでコントロールできるか(取引関係者の協力を取り付ける必要があるかどうか)という観点でも分類しておくと良いでしょう。ある程度分類作業が進んだら、次は優先順位付けをします。小さな課題でも素早い対応が必要なものがあったりしますが、最終的に投資リターンや回収時期、エグジットシナリオに影響する可能性があるもの、そのインパクトが大きいものを高い優先順位にすることが重要です。木を見て森を見ずの状況にならないように気をつけましょう。

2-3. 課題の発生理由

分類と優先順位付けした課題について、それらが発生した理由も整理しておきましょう。当初のリスク分析から想定し得た範囲のもの、想定外だったもの(ないし、想定が甘く気が付かなかったもの)、不可抗力な事象の結果として発生したものといったところでしょうか。不可抗力な事象により発生した課題、問題の場合、契約上例外的な対応ができたり、取引関係者との間の様々な調整がつく可能性があるので認識しておきましょう。

3. 課題解決の選択肢検討と実行

課題解決のために実行できる選択肢は、その取り得る選択肢の数にもよりますが、どこまで自らの資金的、時間的な耐力があるかどうかで、現実的には大きく変わってきます。例えば、投資リターンを考慮するならじっくり時間をかけた方が望ましいケースでも、回収時期を遅らせることができない事情があれば、期待していた回収金額を諦めて、早期回収に舵を切らなければならないかもしれません。逆に、足元で追加出資等による多少のキャッシュアウトがあっても、最終的な投資リターンが期待以上に大きくなる可能性があるのであれば、時間をかけてしっかりリターンを追うということも考えられます。もちろん、投資の目的に関連して、リターンが最優先事項ではなく、追加キャッシュアウトは絶対にしてはならないということであれば、それに合致した選択肢しか取れないでしょう。

3-1. 選択肢の洗い出し

前章にて優先順位付けした課題を整理できたら、それを解決するための選択肢を洗い出します。まずは、大筋の方向感をつけるために粗いものでも良いので、いつくかの肝となる選択肢を、投資の目的に照らして違和感のない範囲で出していくのが効率的でしょう。

3-2. 可能なアクションの確認

洗い出しした選択肢が全て、思うように実行できるとは限りません。自らの契約上の権利だけでは完全にコントロールできなかったり、資金的ないし時間的制約によって現実的には取りにくい、または取り得ない選択肢も出てくるでしょう。特に契約上の権利については、大胆なアクションを選択する場合である程、その確認に慎重さが求められることが通常ですので、必要に応じて弁護士や会計士、その他専門家への念入りの事前確認が望まれます。

3-3. 解決までの道筋とリスク評価

外部環境および契約上の取り得るアクションまで確認できたら、各種課題に対する選択肢を絞り、それぞれの選択肢を実行した時のリスク評価をする必要があります。投資リターンと回収期間の上振れ幅、下振れ幅を見積もること、それ以外の定性的な要因も含めて、当該選択肢を実行した場合に障害になる可能性があるものは何かを冷静に評価しましょう。また、取引関係者との中長期的なリレーションシップを壊しかねない選択肢も、大胆な打開策を取る時には避けて通れないこともありますが、その点はあくまでも投資単体を見た時のプロコン、善し悪しで検討するのが望ましいと考えられます。

3-4. 個別の戦術、対処方法への落し込み

道筋が見えてきたら、その目的を達成するための個別の対処方法を練りこみます。短期的に解決する問題でない限り、時系列(短期、中期、長期)でその個別の戦術、対処方法を作り上げていきましょう。この段階まで来るとかなり細かい部分まで決めなければなりません。例えば、誰がどのタイミングで何を実施して、フォローアップはどうするか等、効率性の観点も考慮しながら進める必要があります。ロスカット、コスト削減など、痛みを伴う戦術の場合は後手にならないように注意しましょう。

3-5. エグジット戦略

問題の軽重にかかわらず、課題解決の先には最終的な結果(期待された投資のリターンと回収時期)を実現するためのエグジット戦略がなくてはなりません。既にシナリオ構築の過程にその点が含まれていれば良いですが、なければ投資の目的等、初心に立ち返りかつ現時点の状況を踏まえた上で、エグジットの形として何が望ましいかを、ベストケースからワーストケースまで、改めて検証しておく必要があるでしょう。


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