大まかな定義として、本項では事業向け投資を、被投資会社が従業員を雇用し、その会社内部で事業活動を行っている会社への投資と解釈します。一方、資産向け投資は、被投資会社が特定の資産のみを保有している(事業運営のための実務作業は、外部委託している)会社への投資を指すものとします。
例えば、スタートアップ投資は、前者の典型的な例と言えるでしょう。スタートアップ企業は、新しく設立した会社を使って、事業を興し、従業員を雇い、事業の成長のためにその会社での資金調達を試みます。投資家が株式等の有価証券を引取る代わりに、会社は事業運営に必要な資金を得るわけです。
後者に当てはまる場合が多いと考えられるのは、不動産投資です。簡単に言うと、収益不動産のみを保有する会社に対して、貸付ないし出資としての投資を行うケースです。その不動産の運用や管理に関しては、外部発注されるため、その会社自体は従業員等を抱えません。つまり、資産そのものと運営主体が切り離されています。
少しわかりにくいのは、資産向け投資を行っている会社への事業向け投資となっているケースです。上の例を参考にすると、会社の形態を活用して不動産投資を行っている運営主体に対して、投資する場合が考えれます。この場合、不動産そのもののリスクと、会社運営のリスクが混ざっています。投資資金が複数の会社を経由する場合は、その資金形態の組み合わせ(貸付ないし出資)にも留意する必要があります。なぜなら、認識しているリスクと実際に取っているリスクに、思い込みによって差が生じているかもしれないためです。
資金使途の範囲
資産向け投資の場合は、その資産の付加価値、収益性を高めるため、維持するためだけに運営資金を使いますし、その資産から生み出された収益は、原則的には分別して管理されます。外部委託による支出も、各種契約に基づいて進むので、一定以上の透明性が確保されています。つまり、資金使途はある程度の狭い範囲に限定されているのです。
一方で、事業向け投資の場合は、もちろんその資金使途を契約上において細かく定義することは可能ですが、実際にその経営責任者が厳格にそれに沿って資金を使うかどうか、という現実的な課題があります。
投資家が全ての資金使途をひとつひとつ管理することは、実務上不可能な場合がほとんどでしょうし、投資する側と投資を受ける側では、その資金使途の解釈に多少のずれが生じるのはやむを得ません。また、投資実行した当初には想定しなかった事態が生じれば、事業を推進する上で、資金使途や資金配分の調整を迫られるでしょう。すなわち、事業向け投資においては、資産向け投資と比べて、資金使途が広範になり、細かいところまで完全にコントロールすることが難しくなります。
依存する対象
投資においては、資金管理をいかに上手くできるかが期待リターンに直結してくるとも言えます。上述の通り、資金使途の範囲ひとつとっても、事業向け投資と資産向け投資では、大きな違いがあります。
事業向け投資の方が、資金管理の裁量権が大きくなるのは明らかです。つまり、その会社を経営する人物への依存度が高くなります。仮に、その会社が優良な事業資産を持っていたとしても、利益を生み出すための指揮監督の良し悪しが、結果の鍵を握るのです。
他方、資産向け投資は、相対的に人よりもモノ依存になります。投資対象の資産に希少価値があり、安定した収益を生み出していれば、極端かもしれませんが、運営主体や外部委託先がどうあれ、その資産が値崩れする可能性は低いでしょう。
どちらの考え方にも一長一短はありますし、投資としての期待リターンの一般的な幅も異なってくるので、投資の目的によって、その違いを上手く取り入れることが大切です。