トラブルが起きた場合、その大小にかかわらず初動が大切です。特に海外投資の場合は、すぐに投資対象国現地に行くことができない可能性があるので、リモートも含めてどこまで対応できるか考えておかねばなりません。手をつけられず、時間だけが経過し、状況が悪化していくことだけは阻止する必要があります。
現地の取引関係者、アドバイザーとの間で良好な信頼関係を構築、維持できていれば、素早く効果的な対処ができるでしょう。ただやはり、トラブルの兆候を早期につかむことも含め、資金管理まわりは、遠隔でも監視、操作できるようにしておくことが望まれます。
一番まずいのは、初動対応の遅れによって、資金流出に歯止めをかけることができず、それが投資回収の観点で致命的な問題を引き起こすことです。また、何らかの契約違反が発生し、それを短期間で治癒できず、投資して取得した権利等自体を、剥奪や強制処分されてしまうことです。
目も当てられない状況になってしまわないように、大きなトラブルが起きた時には、以下の3つの点に留意することが大事です。
資金流出防止と権利保全
特定資産への投資で、自らが単独で投資(出資、貸付)をしている場合は、自らの意思にそぐわない資金流出のリスクは基本的には低いでしょう。
しかしながら、事業性の高いビジネスに投資している場合や、共同投資家が存在する場合、日常のオペレーションを投資先に依存している場合等は、注意が必要です。自らが資金移動の権限を有していて、遠隔であっても資金の退避指示ができるような状態になければ、何ら契約上の違反もなく、時間の経過と共に使い込まれてしまう懸念があるのです。
そもそも投資家はその投資先のリスクを認識した上で、投資実行しているはずですが、根本的なトラブルが発生したり、将来の先行きが不安定になると、モラル低下のリスクも避けられないものです。そのような状況下で、追加資金の拠出が必要になる場合には、十分な慎重さが求められるでしょう。
また、権利保全の観点にも注意が必要です。事業上の契約違反等により、保有している権利が自らの意思とは関係なく強制処分されてしまうこともあり得ます。自らが直接的に契約違反を起こしていなくてもです。そのような場合は、取引関係者と連携を取りながら、その治癒を早期に完了させなければなりません。長期的な猶予期間が設けられていることは稀なので、初動が極めて重要になります。
投資の見える化
上述の初期対策を行なった後は、投資の見える化を行うことが望ましいと考えられます。突然、大きなトラブルが発生することはありますが、大抵の場合は小さな問題が蓄積した上で、それが表面化するというパターンが多いでしょう。
つまり、投資の見える化をしっかりと行い、定期的なモニタリングを欠かさなければ、トラブルの予兆を事前に察知することができる可能性が高まりますし、その間に問題が大きくならないように未然に対処することができます。
特に、問題の発生源がどこにあるのかを突き止めるのが楽になります。例えば、契約上の不備なのか、事業の前提が楽観的すぎたのか、組織のコミュニケーションに支障があるのか、権限委譲範囲に問題があるのか、といった具合いです。
楽観と悲観シナリオの作成
本当に取り返しのつかない、どうすることもできないトラブルが発生することもありますが、ほとんどの場合は、回復するためのリカバリープランを作成することができるでしょう。その中でも、現実的な悲観シナリオを立てておくことが大切です。
現実のものとなるかもしれない悲観シナリオを作るのは、気が進まないことですが、リカバリープランを遂行していく途中で、本来は取りたくない難しい意思決定を迫られることもあるでしょう。その時に、最悪のケースとしての悲観シナリオを持っておけば、思い切った判断を適切なタイミングで下すことができます。悲観シナリオを持っていないと、ズルズルと判断が延びてしまい、結果的に悲観シナリオ以上の悪い結果を招くことにもなりかねません。
もちろん、悲観シナリオに加え、リカバリープランが上手くいった時の楽観シナリオも持っておく必要があります。望みを捨てなければ、事態が急に好転することも十分あり得るからです。