体系化された交渉術や、心理学を活用した手法を取り入れるのは、どのようなビジネスにおいても効果的です。それらは、書籍等から論理的に学ぶことが可能です。ここでは、海外投資の交渉において、特に留意したいポイントを書いてみることにします。
日本国内で通じるような、暗黙の了解を前提とした交渉(相手を深く察しながら有利な条件を引き出していくような交渉)は、海外取引では基本的に通用しないか、非効率になります。投資対象とする国にもよるものの、横道にそれずにストレートに物事を伝える方が、結果的に上手くいくケースが多いと考えられます。
同じ国の人間同士だと失礼に感じるようなことでも、外国人同士だと、身振り手振りも含めて、よほど失礼でない限りは、それなりに許せるものです。失礼かどうか、というよりも中身がどうか(それがしっかり伝わっているかどうか、理解できているかどうか)の方が、スムーズな交渉をする上で、重要でしょう。
勿論、外国人との間で細かく緻密な交渉ができれば、それに越したことはありませんが、海外投資においては、肝となる条件や方向感をしっかり決める交渉さえできれば、他に恐れることはないでしょう。後は、交渉したその内容を、きちんと契約書等の記録に残しておけば、それが安心材料となります。
それでは、そのような交渉が上手い人と下手な人では、どのような違いが出るのでしょうか。
言ったもの勝ち
海外投資における外国人との交渉においては、口頭でも、メールでも、その他書面でも、言わないことには何も始まりません。これは流石に察するだろう、と思っていても、ほとんどそうはなりません。察しないという前提に立って交渉をすべきなのです。
しかも、言いたいことを言っておかないと、相手の都合の良い方に解釈されていってしまう懸念さえあります。特に何らか相手方に文句があるような場合は、その時々に意思表示をしておかないと、了解したものとして既成事実化されてしまう恐れがあるのです。後出しじゃんけんにならないように、気をつけなければなりません。
時間の使い方
時間の使い方が下手だと、有利に進められる交渉でも、少しずつ不利な方向に追いやってしまいます。先を読んで、楔を打っていくこと、小さなことでもアクションを起こしていくことが何より大事です。追い詰められた状態で、何を言っても経過してしまった時間は取り戻せません。
投資回収のフェーズや、資金調達(リファイナンスを含む)のケースでは、時間を有効に使えるかどうかが、結果を大きく左右します。時間的に追い込まれていくと、足元を見られて、通常ならば100の条件を引き出せるところが、80になってしまったり、50になることさえ考えられます。
損と得の使い分け
損して得取れという言葉があるように、短期的な損得と最終的な損得の差を、十分に理解できるようにならなければいけません。目先の利益だけにつられると、大抵失敗します。なぜなら、世の中には目先の利益を見せて、トータルで取り返そうとする場合が、往々にしてあるからです。
目先の損(かもしれないこと)を、将来への投資と考えて、交渉できるかどうかが鍵となります。海外投資に限らず、ビジネスは投資と回収の繰り返しによって、少しずつ元本を増やしていくことが基本です。少し高くついても、その高くついた分の差額を上回る金額を、将来回収できるのであれば、交渉において合理的な判断となり得るのです。